むしめがね

生活のこと、旅のこと、人々のこと、考えたこと

砂上のコーヒー、そしてセッション

 

ロッコに来たら絶対やりたかったことがある。タムタムを演奏することだ。
四日間の旅で、そのチェックリストはあっけなく達成された。


滞在2日目の夕方、アミンさんが「砂漠で夕日を見ようよ」と誘ってくれた。夕暮れ時の砂漠は、昼間の噛み付くような熱さが嘘だったかのように、優しくしっとりと心地よい。靴を脱ぎ、裸足で砂漠を歩く。遠くに街へ帰るラクダの隊列やテントで夜を明かす観光客の姿が見える。まだ明るく景色ははっきりしているが、周囲に音はない。
砂山の一つに登り、街の向こうへ沈む夕日を眺める。空の色が変わっていく。立ち上がる頃には一番星が昇っていた。

 


アミンさんが、少し先の明かりを指さし、お茶にしようという。友達が砂漠でカフェをやっているのだ。近くまで歩いていくと、ちょうど最後の客が帰るところであった。

 

砂の上に敷いた美しい絨毯に座る。頭上には満天の星空が広がる。広い広い空である。
月明かりの元、マスターのユセフさんがスパイス入りのコーヒーを出してくれた。甘いナツメヤシと一緒にコーヒーを飲む。粉を感じるほどの濃いコーヒーに、幾つかのスパイスが混ざり、豊かな香りが鼻を満たす。月の光だけが頼りの世界の中で、私の鼻はいつもよりずっと敏感に、贅沢にその香りを味わうことができる。


何て幸せなんだろうか、と天を仰いでいると、ジャマルさんが店からタムタムを持ち出して戻ってきた。低い音のする太鼓と金属製のカスタネットも登場し、突然セッションが始まる。あとでサリマさんに動画を聞いてもらうと、これはギナワという音楽だという。


小気味好く叩くタムタムの音色に合わせてモロッコカスタネットが合いの手をいれ、低音の太鼓がそれらを締める。時折かちどきの声を上げながら、リズムを絡め上げていく。月に照らされた砂漠に楽しげな音が響く。


お前もやってみろ、と手渡されたタムタムは、想像通りに打ち鳴らせず、入れてもらったセッションで任されたのは、頭打ちだけだった。それでも踊りだし叫び歌い上げたいほど楽しいひと時であった。