むしめがね

生活のこと、旅のこと、人々のこと、考えたこと

コーヒーと妄想

最高の一杯。

ペーパーフィルターに入れた挽きたての豆に向けて焦らずゆっくりお湯を注ぐ。

もちろんお湯は薪ストーブでシュンシュン沸かしたもので、水は朝方まだ空気がしっとり冷たく湿っている時間に近所の森で汲んだ湧き水だ。外では静かな雨が降り、緑を濃く落ち着いた色に染めているが、部屋の空気は心地よく乾き、ランプが空間を温かなオレンジに染めている。

静かなジャズが時の流れを作り、父の代から使うドリッパーからサーバーへゆっくりと雫が落ちていく。幾つか並ぶカップの中から友人が焼いてくれた厚手のコーヒーカップを選んで柔らかな湯気が昇る液体を丁寧に注ぐとその一杯は出来上がる。

慎み深い銀髪の老紳士(若き日を想像せずにはいられない端正な顔立ちと柔らかな物腰で教養も高く、しかもそれを誇示せず静かな生活を好む)である私は今日も納得のいく一杯が入ったことに心地よい満足感を覚え、足元のゴールデンレトリバー(11歳 賢く大人しい性格。ちなみに実際の愛犬はコーギーだが、彼には謝りつつ、ここはやはりゴールデンレトリバーだと思う。)を眺めながら古い友人に想いを馳せる。

あぁ。彼のゆっくりとした呼吸まで想像できる。上品な珈琲の立てる湯気の一粒一粒が誇らしげに光っているのが見える。時折昔の小さな失敗を思い出し口元の髭を気持ちよさそうに揺らす。