むしめがね

生活のこと、旅のこと、人々のこと、考えたこと

ヘンナについて

 

シュラフさんのお家に着くと、居間のタイルの床に、絨毯を敷き寝そべるサリマさんが目に入った。そのまま挨拶を交わす。サリマさんの両手両足はビニールで覆われ、僅かに透ける手は黒ずんで見えた。

ご病気なのかな…と心配していると、おもむろにビニールを振るサリマさん。そして無理やりその袋を取り始めた。


私は慌てた。傷口を披露してしまうのか…。もはやこれまで、ちゃんと見よう。


そう決心した私の目に飛び込んだのは、泥のようなものを塗った手のひらだった。にんまりと笑いながらその手を振って見せてくれるサリマさん。「ヘンナ」だと周りの人が教えてくれる。それは、手や足に施す美しいペイントの一過程なのだった。


犠牲祭の前日だからだろうか。近所にすむ親戚も集まり、女性たちが互いの手や足に美しいヘンナを施していく。型に抜かれたシールを手に貼り、その上から泥のようなものを塗りつけて乾かす。さらに細かいものは、注射器のようなものを使い描いていく。ぐっと集中して作業するその脇を、時折暇そうに男性たちが通り過ぎる。そうして1時間もすれば、泥は乾き、美しい絵柄が浮かび上がる。


私もサリマさんにヘンナを付けてもらった。シールを慎重に手に乗せてくれる彼女と、思わず息を詰めて見つめる私。慣れた手つきで泥を掬いあげ、はみ出さぬよう丁寧に塗りつけてくれる。ひんやりと冷たい泥を手の甲に感じる。塗り終わると、居間の入り口に腰掛け乾くのを待つ。ヘンナを施した女性たちも同様に、絨毯に寝そべりのんびり熱風に吹かれる。どれ一曲、と思い口笛を披露すると、奥様方爆笑。未だに理由は不明だ。


その時のヘンナは、イフレンに帰ってきたいまでもしっかり手の甲に残っている。見るたびに、お世話になった人々の顔や生活が浮かぶ